F)「つながる」為の次ぎなる術

★無線LAN、街なか丸ごと 金沢市、中心部で整備へ

広島市の平和記念公園のベンチには、無線LANが使えることを示す「WiFi」という表示がある(右端)

 石川県金沢市が、市中心部での「公衆無線LAN」の整備に向けた取り組みを進めている。昨秋就任した山野之義市長の目玉公約で、街なかのにぎわい創出や国際会議の誘致などが目的だ。ただ、特に無線LANを利用しない人にはメリットがわかりづらい。市の計画や課題をまとめた。

 LANは「ローカルエリアネットワーク」の略で、会社内など一定範囲をつなぐインターネット通信網のこと。ケーブルを使う有線LANが主流だったが、外出先でノートパソコンやスマートフォン(多機能携帯電話)を使う際に便利な無線LANも普及が進む。

 携帯電話には、「iモード」などで知られる専用の通信網がある。パソコンも携帯電話の通信網を利用したデータ通信カードを使えば、外出先でもネットに接続できる。ただ、携帯の通信網は毎秒送受信できるデータ量が小さく、動画などはスムーズに見られない。

 一方、無線LANは、ケーブルでつないだパソコンと同様に、大量のデータ通信が可能だ。今は大半のパソコンやスマートフォンには無線LAN機能が搭載されている。利用者は通信事業者のサービスに加入すれば、各社がアンテナを設置している公共施設や店舗で無線LANが使える。

 金沢市はまず9月までに、金沢21世紀美術館など公共施設8カ所にアンテナを設置。その周辺の半径数十メートルは誰でも無料で無線LANが使えるようにする。

さらに、市中心部の整備推進エリアで事業を行う意欲のある通信事業者を募る。一方、エリア内の店舗や宿泊施設にはアンテナ設置への協力を呼びかける。両者の費用負担や、一般利用者の負担がどうなるかは、今後募集する通信事業者の計画次第だ。

 通信事業者にとっては、アンテナを広範囲に設置できれば自社の無線LANサービスの利便性が高まる。店舗や宿泊施設にとっては、アンテナの設置が誘客につながる。市は両者にメリットを説明し、間を取り持つことで整備を進める。

 市が主に想定する利用者は「外国人を含む観光客」「ビジネス客」「学生」だ。特に外国人は無線LANの利用率が高いとされることから、国際会議や観光客の誘致が期待できるという。若者が集まれば、街なかの活性化にもつながる。

 自治体による無線LAN整備の先行事例としては、広島市がある。2008年から順次、市中心部の平和記念公園など十数カ所にアンテナを設置。誰でも無料で利用が可能だ。市は「平和の大切さなど、ここで感じたことを記憶が鮮明なうちに世界に発信してもらうことが狙い」と説明する。

 市はアンテナ設置費や運営費として、月約60万円を負担。月間の平均利用件数は08年度122件、09年度426件、10年度648件と増えてきた。ある平日に平和記念資料館で無線LANを使っていたハンガリー人のジョリー・マイザックさん(28)は「メールのチェックやインターネット電話を使った。ホテルでは使えなかったので助かった」と話した。

 一方、山口県萩市はソフトバンクモバイルと提携。同社が今年度中に200カ所をめどにアンテナを設置し、同社のユーザーは無料で通信できるようにする。ただ、同社以外の事業者に登録している人は、一定の利用料を払う必要がある。

 金沢市の構想は、「市はお金を出さず、特定の業者に偏ることもない」(企画調整課)という広島市とも萩市とも違う手法。一定の基準を満たす通信事業者には広く参加を認める方針だが、実際どのぐらいの事業者が参加し、どれほどのエリアで無線LANが使えるようになるかは未知数だ。

 市中心部の商店街関係者は「無線LANはあくまでインフラ。それを使って観光行事をライブ配信するなど仕掛けをしないと、活性化にはつながらない」とも指摘する。

(「社会的動向」へつづく)